新米のころになると、日本人の表情がひときわ明るくなったものです。稲刈りの季節というのは、水田ばかりでなく、日本中の山も川も海も食材で満たされたのです。まさに、どこへ行っても「天高く馬肥ゆる秋」状態になりました。畑ではサツマイモが取れ、山では栗やクルミ、山ブドウ、そして里では梨、柿、ブドウ。川では子持ちの下りアユが丸々と太り、海にはサンマがやって来て、山の幸、海の幸が次々と食膳に載りました。
稲刈りのころになると、その前に田の水を抜くから、太ったドジョウが水口に集まり、夕方のどじょう汁になりました。どじょう入りのカレーもありましたが、あまり人気はありませんでした。しかし、子どもたちは面白がって大騒ぎ。
昨日こそ早苗とりしかいつの間に稲葉そよぎて秋風の吹く
『古今和歌集』の中の詠み人知らずの作品で、「田植えしたのは、つい昨日のことのように思えるのに、いつの間にか秋風の吹く季節になってしまった」という意味。
時の早さに驚くと同時に、稲に対し、立派に育ってくれてありがとう、という愛情がにじみ出ています。
新米というと、今でも稲作農耕民族・日本人の血が騒ぎます。豊年満作を感謝する秋祭りの太鼓の音を、遠い記憶の中からよみがえらせてくれるのも新米のほかほかご飯。
「米が取れたらよォ 米のおまんま食えるよォ 富士の山ほどよォ 生みそ添えてねー」雪のように真っ白い大盛りご飯に生みそを添えて、好きなだけ食べられる秋一番のごちそうという意味。新米はそのくらい魅力がありました。
確かに新米ご飯はみずみずしい香りもあって、いくらでも食べられたものです。そうはいっても食べ過ぎは、消化不良を起こしかねません。そこでアミノ酸たっぷりで、ご飯の甘さを引き立てる生みそを付けました。生みそには酵母やこうじ菌に加えて消化酸素もたっぷりですから、消化を良くする上でも役に立つ健康食だったのです。